北海道の北東部に突き出た、大自然が色濃く残る知床半島。
知床半島の豊かな生態系を支える一つに、羅臼岳・硫黄山・天頂山が連なる知床連山があります。
今回は、その知床連山で専門山岳ガイドを20年近く続けている知床のプロ「知床山考舎」の滝澤さんに、ガイドを始められた経緯や想いをテーマにお話を伺いました。
20年近く変わらない想いを抱き続ける滝澤さんのお話は、自然を愛する人なら誰もが共感するものだと思います。
どうぞ最後までお読みください。

経歴:博物館、地方公務員、そして知床山考舎の旗揚げ
ー本日はよろしくお願いします。簡単に現在の山岳ガイドとしての活動をご紹介いただけますか?
よろしくお願いします。
知床連山をはじめとした、北海道のさまざまな山々のプライベートガイドをしています。
そのほかにも、ツリーイングのインストラクターから、取材のガイドやコーディネーターまで幅広く活動しています。
また、羅臼岳などの山岳環境の保全活動にも主体的に取り組んでいます。
ーありがとうございます!今は専門の山岳ガイドとして活動されている滝澤さんですが、これまでのご経歴をお伺いできますか?
函館の隣町である北斗市で生まれ、高校まで函館で過ごしました。
その後は大学進学に伴い札幌に移り、在学中の4年間は札幌近郊の江別市にいましたね。
高校、大学と、ボート部やワンダーフォーゲル部に所属していたので、学生時代から常に自然には触れていました。
大学生のとき、学芸員を目指して部活に励んでいたところ、ちょうど知床博物館で調査補助員の求人募集があり、知床に来ることになりました。
調査補助員として採用されて、夏の間は遺跡の発掘に関わっていましたが、冬の間は館内で学芸員の補助としていろいろな体験をさせてもらいました。
その後は周りの勧めもあり、公務員試験を受けて斜里町に採用され、自然保護係に配属されました。
そこでは、知床100平方メートル運動の事務局や知床エリアの調査でヒグマの捕獲を手伝うなど、一般に知床を楽しむ以上のことをさせてもらいましたね。
自然保護係として勤務したあと、観光課でも働きましたが、北海道のアウトドアガイド制度が始まったこともあって、ガイドとして独立し、知床山考舎を立ち上げ、今に至ります。
※アウトドアガイド制度とは
2002年から始まった公的なガイド認定制度。参加者の安全だけでなく、ルールや環境にも配慮しつつ自然の素晴らしさを紹介してするアウトドアガイドについて、北海道知事が認定する資格制度です。
ーなかなか面白いご経歴ですよね。なぜガイドとして独立しようと考えたのでしょうか?
当時、斜里町には「プロの登山ガイド」がいなくて、自分がその役割を担うことができるんじゃないかと思いました。
博物館にいた頃や町職員として働いていた頃も、観光目的だけでなく、調査目的での知床の山に関する問い合わせがたくさんありました。
しかし、山について専門的な知識を持っていて、それに対応できる、いわゆる「プロの登山ガイド」がいなかったんですよね。
そんな問い合わせがあると私に回ってくることが多かったのですが、職員であるからどうしても対応できる範囲が狭かったんです。
ガイドである前に職員であるから、立場的に、地域や山に対して意見を言っても弱かったり、ガイドもほとんどボランティアみたいになってしまい、責任があいまいになっているのを当事者として感じていました。
ちょうどその頃に、北海道でアウトドアガイド制度が始まったんです。
そのガイド制度のモデルケースでの協力を求められ、それに関わったときに「もやもやしていたけど、ガイドをやればいいんじゃないか」と気づきました。
最初は、役場の仕事をしながら夏山ガイドの資格を取って将来に向けて準備を始めましたが、やはりガイドに専念したいと思い、2003年の7月に知床山考舎を立ち上げ、今に至ります。
想い:「知床の山をこれからも多くの人に楽しんでもらうために何ができるか考えて行動していく」
さまざまなお仕事を経て、専門の山岳ガイドの活動を始めた滝澤さん。知床山考舎を立ち上げて20年弱が経ちますが、立ち上げた当初から今まで同じ想いでガイドを続けられています。
ーどのような想いでガイドをされていらっしゃるのでしょうか?
「知床の山をこれからも多くの人に楽しんでもらうために何ができるか考えて行動していく」という想いですね。
そもそも知床山考舎を始めたきっかけは、プロのガイドがいないことによるさまざまな課題を解決したいと思ったことでした。
当時から今までその想いは変わっていません。
登山道整備という形で直接的に山に手を加えているのも、多くの人に楽しんでもらうためですね。
そのほかにも、取材協力など、いろいろな形で山の情報について発信していますが、全ての活動がその想いに繋がっています。
これからも多くの人に楽しんでもらうために何ができるか考えて行動していくことが必要だし、今後も知床山考舎として活動を続けていこうと思っています。
「考」であり「行」であり「工」であり「孝」である知床山考舎
ー何ができるか考えて行動していく。まさに「山考舎」ですね。
そうですね。知床山考舎の名前にはいろいろな想いが込められています。
山行という意味での「行」。
また、私たちだけでなく、山に入る人にはその山のことを「考」えてほしい。
そして考えた上で「行」動してほしい。
そして私が担っている山の環境整備という工事の「工」もそうだし、山に恩を返す意味で親孝行の「考」。
知床山考舎の名前には、全ての意味や考えをまとめた想いが込められているんです。

知床連山の魅力:「広がりは狭いけど密度がある」
ー想い、そしてその想いが込められた「知床山考舎」という名前、全て素敵です!
多くの人に楽しんでもらいたいとのことですが、滝澤さんが感じられる知床連山の魅力はどこにあるのでしょうか?
広がり的には狭いのかもしれないけど、密度が高く、自然が広がっているところでしょうか。
知床連山は海に突き出ていて、山に登りながら海を眺めることができますが、そんな環境ってあまりないですよね。
山と海とすごくダイナミックな景色を楽しむことができます。
もちろん見た目だけでなく、環境の変化の仕方もダイナミックなんです。
羅臼岳は1661mしかないけど、本州の北アルプスの2800-2900mの環境に匹敵すると言われています。
幅の狭い知床半島に垂直面がぎゅっと押し込まれているわけだから、その分濃い環境を味わうことができますよ。
ーそれだけ濃い魅力を味わうことができるんですね!ぜひ冬山では滝澤さんにガイドをお願いしたいです。本日はありがとうございました!
取材の終わりに
知床エリアが世界自然遺産に登録される前からガイドとして活動し続けてきた滝澤さんの想いは「誰かのために」という気持ちが根本にありました。
そして、目の前にある課題に対して、静かに、そして確実に一歩一歩行動していく姿はとてもかっこよかったです。
そんな滝澤さんの姿を見て、働く意義について改めて考えさせられました。
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