ハッカとカーリングの街・北海道北見市。オホーツク海から大雪山まで伸びる、東西で100kmほどの距離がある北海道一大きい自治体です。
その北見市内留辺蘂(るべしべ)町というオホーツク海から約70kmほどの内陸部に「北の大地の水族館(山の水族館)」があります。
この北の大地の水族館、一周の所要時間が約20分ほどの小さな水族館ですが、ここならではの尖った展示や仕掛けで日本全国にファンがいます。
今回は、そんな北の大地の水族館をご紹介します。
実際に取材に行ったからこそわかる生の情報が詰まっています。
ぜひ最後までご一読ください。
北の大地の水族館とは?

北の大地の水族館は、1978年に「山の水族館・郷土館」として開業しました。
開業当時、山の水族館の横を通る国道39号線は、札幌から旭川や層雲峡を抜けて北見、網走に抜ける観光の主要国道で、それに伴い温根湯温泉エリア全体が栄えていました。
その頃、網走には「オホーツク水族館」という水族館があり、当時の町長の「網走に海の展示があるのだから、川沿いに山の中の水族館があってもいいじゃないか」という発想で開業することになりました。
海から離れていたこともあり、海水を取水することが難しく、川魚のみの展示でスタートしました。

水族館プロデューサー・中村元氏がリニューアルを手がける
たくさんの地元の人たちや観光客から愛された旧山の水族館ですが、開業から30年以上経ち、施設の老朽化が目立ったため、2012年にリニューアルすることになりました。
そのリニューアルに大きく関わったのが日本で唯一の水族館プロデューサーである中村元氏。
中村氏は鳥羽水族館や新江ノ島水族館、サンシャイン水族館などのさまざまな水族館のリニューアルに携わってきました。
中村氏の手法として「水塊 (すいかい)」と呼ばれる、まるで水中にいるかのような感覚と「行動展示」という、ただ生き物を見せるのではなく生態に即して動く姿を見せる二つの手法があります。
この北の大地の水族館でもその二つの手法を随所に見ることができます。
館長の想い「とにかく水族館を楽しんでほしい」

リニューアル時からさまざまな展示や企画に携わってきた山内館長は、「とにかく水族館を楽しんでほしい」という想いから、展示の見せ方やお客さんとの接し方など、全てにおいて「ゲストを楽しませる」という軸を大切にされています。
▼詳しい山内さんの想いを伺った記事はこちら!
ここにしかない!?北の大地の水族館ならではの展示
ここからは、中村氏や山内館長をはじめとするたくさんの人々が作り上げた、北の大地の水族館ならではの展示についてご紹介します。
北の大地の水族館が位置する北海道・道東の大自然、そして、温根湯温泉エリアの魅力である「豊かな自然環境」「厳しい自然」「豊富な温泉」をダイレクトに感じることができる展示がたくさんあります。
【まるで水中世界】滝つぼ水槽

北の大地の水族館に入ると、はじめに滝つぼ水槽が目に入ります。
ここでは、まるで滝つぼを水中から見上げているような浮遊感を感じることができます。
実はこの滝つぼ水槽ですが、水中感や浮遊感を楽しんでもらうために、さまざまなこだわりが隠されているんです。
その一つが「あえて滝を見せないこと」です。
滝つぼ水槽は、実際の滝と同じように水を高さをつけて落とすことで作られています。
また、水中の循環ポンプで水中から水上に向けて噴き上げるように泡を作ることで、より自然な水中感や浮遊感を感じることができます。
ただ、「滝を見る」のではなく「水中世界を感じてほしい」という想いから、あえて滝の部分は見せないようにしているそうです。
また、もう一つのこだわりが「生態に合った展示方法」です。
滝つぼ水槽で展示されている可愛らしい淡水魚・オショロコマ。
彼らは実際に川の上流に生息しており、滝つぼの縁に多く見られるそうです。
この水族館でも、その姿を再現するために滝から餌を落として水槽の上部に誘導するなど、オショロコマの自然の姿を見ることができるよう、こだわりが隠されています。
【冬は水面が凍る!?】四季の水槽

一つ目の水槽を抜けると見えてくるのが「四季の水槽」。
この水槽は実際に外と繋がっていて、春夏秋冬と毎シーズンごとの北海道の川の水中世界を再現しています。
取材に伺った初夏はエゾウグイが気持ちよさそうに泳いでいましたが、秋口にかけてヤマメや鮭、カラフトマスなど、そのシーズンに合った魚が展示されるので、どの季節に行っても楽しむことができます。
特に目を引くのが「冬の四季の水槽」。

外気に触れているので、冬の寒い時期にはこの水槽の表面が凍ります。
旧山の水族館時代には、冬は閉館していましたが、リニューアルに伴い冬も営業を行うことになりました。
北海道の冬は寒さが厳しく、なかなか来館客を引き付けることが難しいと予想されました。
そこで、その寒さを逆手にとって「寒いからこそ見える景色」でお客さんを呼び込もうとしてできたのが四季の水槽。

冬の時期の水槽の掃除は、氷の表面に穴を開けて潜水して行います。
一年に2回しか見ることができない冬の掃除のシーン、見逃せませんね。
【日本最大級の淡水魚】イトウの展示

日本最大級の淡水魚である「イトウ」の展示は大迫力。
北の大地の水族館では、イトウの展示に力を入れていて、大きく育ったイトウだけでなく、卵や稚魚も展示しています。
ここまで大きく育つことができるのは、その生息地が栄養豊富だということの証拠。
つまり、北海道の豊かな土壌をイトウの姿から見て取ることができます。
実は昔、イトウは全道的に生息していましたが、現在はその生息域がどんどん縮小しています。
山内館長は「イトウってすごい大きな魚なんだね!すごいね!と感じてもらうことで、自然界での実際のアクションをする人が一人でも増えればいい」と話します。

さらに、山内館長は「イトウは北海道の川や湖においてのアンブレラ種です」と続けます。
「アンブレラ種であるイトウを守ることが、北海道の豊かな河川・湖の環境を守ることにつながります。展示をきっかけにイトウに興味を持ってくれたら嬉しいです。」
▼アンブレラ種とは
地域の生態ピラミッドの頂点にある生き物で、アンブレラ種が生育できる環境を保護することで、その傘下にあるほかの種の生育までをも保全することができ、広い面積にわたる生物の多様性が保たれることになるという保全上の戦略的な考え方。
北海道の豊かな自然に思いを馳せながら、水の中をゆったり泳ぐイトウをぜひ一度見に来てください。
【温泉水で育てた熱帯魚】世界の熱帯魚コーナー

最後にご紹介するのは「世界の熱帯魚コーナー」。
ここで展示されている熱帯魚は、水族館のある温根湯温泉の温泉水で育てられます。
旧山の水族館時代に、冬の閉館時に温泉水で飼育したところ、魚の傷の治りが早かったり、生育が少し早かったことから、温泉水が利用されるようになったそうです。
来館客を楽しませるたくさんの仕掛けへのこだわり
北の大地の水族館では、「お客さんを楽しませる」さまざまな仕掛けへのこだわりが散りばめられています。
数えきれないほどある仕掛けですが、ここでは3つご紹介します。
独創性あふれる手作りのPOP
北の大地の水族館では、各展示の周りに独創性あふれる手作りのポップが所狭しと貼られています。
ニジマスとのLINEのトーク画面やプロフィール帳を模した「うおふぃーる帳」など、刺さる人にはとことん刺さるPOPを楽しむことができます。

館長が出てくるボタン

Twitterで一躍有名になったのがこの「館長が出てくるボタン」。
少しでも館内でのコミュニケーションを増やしたい、との想いで2020年の夏に山内館長がスタートしたこの仕掛け。
ボタンを押すと山内館長が出てきて会話をすることができます。
このボタンを設置した詳しい想いや背景については、ぜひインタビュー記事をご覧ください。
いただきますライブ

イトウの水槽で行われる「いただきますライブ」。
自然では当たり前のように行われているものの、普段は目にすることができない生の「捕食」を目の当たりにすることができます。
※現在一時的に開催が休止されています。詳しくはHPをご確認ください。
【施設情報】料金・アクセス
施設名 | 北の大地の水族館(山の水族館) |
公式サイト | https://onneyu-aq.com/ |
営業情報 | (営業時間)8:30~17:00 (4月~10月) 9:00~16:30 (11月~3月) |
料金 | 一般:670円中学生:440円 小学生:300円 |
支払い方法 | 現金のみ |
アクセス | 〒091-0153 北海道北見市留辺蘂(るべしべ)町松山1-4 |
車で行く場合 | (北見市街から) 国道39号線で約40分 (旭川市街から) 国道39号線で約2時間30分 |
公共交通機関を使う場合 | (電車) JR留辺蘂駅から道の駅おんねゆ温泉行きバス約20分。終点下車後徒歩2分。(バス) バスの時刻表は公式HPより |
駐車場情報 | あり(無料)普通車37台/身障者用2台 |