北海道北見市から車で1時間ほどの場所にある「北の大地の水族館(山の水族館)」。
ここは他の水族館とは一味違う、館内には来館者を楽しませる仕掛けだらけの「徹底的にふざける」水族館。
その背景には、2012年のリニューアル当初から中心にいる山内さんの姿があります。
今回は山内館長に、北の大地の水族館にかける想いや、さまざまな仕掛けの裏側についてお話をお伺いします。

北の大地の水族館
1978年に開業。2012年には水族館プロデューサーである中村元氏が手がけ、リニューアルオープン。「滝つぼ水槽」を代表とする目を引く水槽や独自性のある展示など、来館者を楽しませる仕掛けが各所に散りばめられています。
ご経歴:移住して水族館の館長に
ー本日はよろしくお願いします。まず簡単にご経歴のご説明をお伺いできますか?
よろしくお願いします!
愛知県で生まれ、小さい頃から魚をはじめとする生き物が大好きでした。
自分で生き物を育てていた経験から、いつか水族館の飼育員になりたいと思っていました。
大学では海洋系の学部に所属し、その後にここ、北の大地の水族館にて採用され、小さい頃からの夢を叶えることができました。
ー縁もゆかりもない北海道に移住ですか!不安はありませんでしたか?
当時は「どこでもいいから水族館で働きたい」という思いの方が強かったです。
むしろ小さい頃からの夢を叶えられるということで高揚感もありました。
働き始めてからスタッフやお客さんなど、いろいろな人と関わることで、よりこの水族館のことが好きになりましたね。
今は館長として、普段の水族館の運営からさまざまな企画まで携わっています。
「とにかく水族館を楽しんでほしい」
2012年のリニューアル当初より水族館の運営に携わってきた山内さん。水族館での勤務を通して、館長になった現在まで、ある想いを大切にしていると言います。

すごくシンプルですが「とにかく水族館を楽しんでほしい」という想いで普段お客様と接しています。
「どうやったら楽しんでもらえるか」、それだけを考えて館内での仕掛けやさまざまな活動に取り組んでいます。
ーその想いを抱くようになったきっかけは何かあったのでしょうか?
実際に水族館で働いた経験が大きいです。
それこそ学生時代は「水族館は生物を見せる場所であって、生き物のことを正しく伝えることが重要」だと考えていました。
でも働き始めてから、お客さんがすごく楽しんでくれている姿を見る機会がたくさんありました。
そのときに「水族館は訪れる人にとって、ただいるだけでも楽しい場所なんだ!」と気付きました。
私自身は魚がすごく好きで、魚を見ているだけで楽しいんです。
でも、一般の人がそうでないことは、知識として知っていても実感はなかったんですね。
実際に働き始めて、老若男女いろいろなお客さんの姿を見て、「別に魚を好きじゃなくても楽しんでくれているんだ!」というのをちゃんと感じることができました。
だからこそ、魚が好きではない人にも楽しんでもらえるような、親しみやすい水族館を目指しています。
ーそうなんですね。それでいうと館内のさまざまな仕掛けでは「楽しませてやる」という気持ちをひしひしと感じます。(笑)

結局、水族館が楽しくないと魚のことを知ろうと思ってもらえないんですよね。
ポップなどの仕掛けを通して「楽しかったね!また来たいね!」と思わせることで、魚を好きになってもらう第一歩になるんじゃないかと思います。
そして「あの水族館楽しかったね」の思い出の中に一つでも、「そういえばさ、あの魚って〇〇らしいよ。」といった会話があれば嬉しいです。
普段は「どうやったらお客さんに楽しんでもらえるか」ばっかり考えていますし、だからこそ、LINE風の紹介やプロフィール帳を模した展示などを作って、楽しんでもらえるように心掛けています。
「全力でふざける」さまざまな仕掛け
山内さんが館長を務める「北の大地の水族館(山の水族館)」には、「とにかく水中世界を楽しんでほしい」という想いをカタチにしたさまざまな仕掛けがあります。
その仕掛けについて「全力でふざけることが大事」と話す山内館長。
最大公約数を狙うのではなく、刺さる人にとことん刺さるように作られているんです。
だからこそ、北の大地の水族館では他の水族館では見ることができない珍しい仕掛けを楽しむことができます。
その一つが「館長が出てくるボタン」。

ーTwitterでもバズっていた「館長が出てくるボタン」。なぜ始められたのでしょうか?
さまざまな狙いはありますが、最初はとにかく暇で作りました(笑)
このボタンは2020年の7月に設置したのですが、当時は緊急事態宣言による休館や、開館していてもお客さんが来ない状態が続きました。
やっぱりお客さんに楽しんでもらうことが自分の楽しみなので、お客さんが来ないと寂しくてかまってほしくて、勝手に設置してしまいました。(笑)
設置当時は面白がってもらえるかな、とは思っていましたが、まさかこんなにバズるとは思っていませんでした。
ーちなみにどのような狙いがあったのでしょうか?
館内でのコミュニケーションを増やすことが狙いでした。
当館は小さな水族館で20〜30分で一周してしまうんです。
でも、小さい水族館の中でお客さんとのコミュニケーションを増やすことで、滞在時間も増えて満足度も高くなる。
そしてさらに、私たちが伝えたいことを伝えやすくなると考えました。
ー結構押されるお客さんは多いんですか?
正直なところあまりいません。月に10回ほどです。
押してくれるお客さんも、「これを聞きたい!」という内容があるというよりも、この発想を面白がってボタンを押してくれる方ばかりですね。
「面白かった展示は?」「好きな魚は?」など、私から質問することもあります。
とにかく水族館を楽しんでもらうきっかけになっていたら嬉しいです。
北見市民に愛着を持ってもらえる水族館をめざす
山内さんの「楽しませたい」という想いはとどまるところを知らない。
今後の展望を話していただきました。
ー今後、その想いをどのような人に届けていきたいといった展望はお持ちですか?
水族館の足元である北見市の人たちに「地元の水族館」という意識を持ってほしいです。
北見市は10数年前に一市三町が合併してできた道内で一番広い自治体なんです。
端から端まで100kmもあるほど広く、しかも水族館はその端に位置します。
北見市内には、北の大地の水族館が北見市の施設だと認識していない人がたくさんいます。
それってすごくもったいないし、寂しいですよね。
今はとにかく北見市の市民に「まちの水族館」だと感じてほしいです。
きっと観光客も、地元の人が楽しいよって言ってるところに行きたいのではないかと思います。
ー素敵ですね!今後北見市の人たちに対して何か新しい仕掛けは考えられていらっしゃいますか?
今年でリニューアルオープンから10年を迎えますが、その10周年記念事業として「出前水族館」を開催します。
とても広い北見市、その中の一つ一つの自治体をまわって、一日水族館をお楽しみいただきます。
移動式だからこそ楽しんでいただけるような、さまざまなコンテンツを用意しています。
▼出前水族館について詳細はこちら!
https://www.city.kitami.lg.jp/administration/news/detail.php?news=854
他には、より親しみやすい水族館になるためにガイドツアーができたらいいなと考えています。
ぜひそのツアーの中でも全力でふざけて楽しませていきたいですね。
ー山内さんの「全力でふざける」。今後も楽しみにしています!今日はありがとうございました。
取材の終わりに
今回訪れた「北の大地の水族館」。
小さいながらもその密度は今まで体感したことのないほどで、「楽しんでほしい」をピュアに突き詰めた、山内さんをはじめとする飼育員の方々の努力を垣間見ることができました。
今回の取材で2回目の来訪。きっと3回目のタイミングは思ってるよりも早く来るのだろう。
ぜひ道東に行くときは一度訪れてみてください。
「「水中世界を楽しんでほしい」北の大地の水族館館長・山内創さんの想い」への1件の返信
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